「ミラクル・ファミリー」(柏葉幸子)①

「絆」を確かめさせてくれる9つの家族像

「ミラクル・ファミリー」
(柏葉幸子)講談社文庫

試験勉強をしている
「おれ」の部屋に来て、
マンガを読みはじめた「おやじ」。
人間の女の子に恋をした
キツネの話に涙を流している。
仕方なく話を聞くと、
父親、つまり「おれ」の祖父は
人間に化けた
たぬきだったのだという…。

面白かったです。
さすがベテラン童話作家・柏葉幸子。
9つの家族の姿を描いた短篇集です。
まずは作品一覧を。
 ①たぬき親父
 ②春に会う
 ③ミミズク図書館
 ④木積み村
 ⑤ザクロの木の下で
 ⑥「信用堂」の信用
 ⑦父さんのお助け神さん
 ⑧鏡よ、鏡…
 ⑨父さんの宿敵
これらに共通しているのは、
ちょっと変わった「父親」の存在と、
ちょっと不思議な
「異なもの」の登場です。

①の「おやじ」は
マンガを読んで泣いている
変な父親ですが、
ユーモアいっぱいです。
自分の父親が
実はたぬきだったのだと
「おれ」に打ち明けますが…。

②の「父さん」は、
毎年春になると
「メダカとり」と嘘をついて
河原にじっと佇んでいます。
中州にある祠から、
初恋の人が出てくるのだと…。

③の「父」は、
子どもの頃にミミズクが運営する
「ミミズク図書館」に
いったことがあるという話を、
娘に優しく語ります。

④の「オヤジ」は、
普通(?)の会社人間です。
同僚の塚本さんの奥さんは
実はキツネで、
山へ帰ってしまったのだという…。
この一篇だけ笑えないお話です。

⑤の「父」と母は、表面に出ない
「優しさ」に満ちた二人です。
息子夫婦に子どもが出来ないことを
少しも気にせず、
「鬼子母神」の伝説を語ります。

⑥の「おれ」は母親に内緒で三年間
着付け教室に通っていたのですが、
その理由は…。
高山に棲む妖精を巡っての
「オヤジ」と「おれ」の共同作業が
爽やかです。

⑦ではそれまで強気の「父さん」の、
隠された一面があらわになります。
「お助け神」が助けた報酬として
今回奪っていった物は…。

⑧の「父さん」は、
夜になると「母さん」に変わります。
「白雪姫の鏡」の魔法のなせる業か、
単なる二重人格か。
美しくも悲しい一話です。

⑨の「父さん」は、
自身の幼い頃の弱さを
堂々と子どもたちに語れる
度量の大きい父親です。
「宿敵」の正体が
最後に明かされますが…。

①を読み終えると、
単なるコントにしか思えないのですが、
②を読んだところで
幻想小説集なのだと気付かされます。
読み手は知らぬ間に
ファンタジーの世界へ
引き込まれていくのです。

それでいて最後の⑨で、
再び現実の世界へと、
何事もなかったかのように
引き戻されています。
単に9つの作品を並べたのではなく、
その配列と
それぞれの作品世界の構築には、
緻密な計算がなされてます。

「絆」というものを
改めて確かめさせてくれる
9つの家族像です。
中学生にも、そして大人にも
ぜひ薦めたい一冊です。

(2019.8.5)

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